閧ルかのことは考えることができなかった。周囲の日の光と同じように、希望が私のうちに輝いてきた。私は信頼しきって、解放と生命とを待つように自分の判決を待った。
 そのうちに私の弁護士がやって来た。人々は彼を待っていた。彼はうまうまと十分に食事をしてきたところだった。自分の席につくと、彼は微笑を浮かべて私のほうをのぞきこんだ。
「うまくいくだろう。」と彼は私に言った。
「そうでしょうか。」と私も微笑《ほほえ》んで軽い気持で答えた。
「そうさ。」と彼は言った。「まだあの連中がどう申告したか少しも分らないが、しかし予謀の点はむろん取りあげなかったろう。そうすれば、終身懲役だけのことだ。」
「なんですって!」と私は憤然として言った。「そんならいっそ死刑のほうがましだ。」
 そうだ死刑のほうが! とある内心の声が私にくりかえした。それにもとより、そう口に出して言ったところで、なんの危ういことがあろう。死刑の判決はいつも、夜中に、蝋燭《ろうそく》の光で、黒い薄暗い室で、冬の雨天の寒い晩にくだされたのではないか。この八月に、朝の八時に、こんなよい天気に、あれらの善良な陪審員らがあって、そんなことがある
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