トいる。が、その人たちは誰も私を憎んではいないし、みな私を気の毒に思ってるし、みな私を助けることもできるはずだ。だが私を殺そうとしている。お前にそのことがわかるかい、マリーや。おちつきはらって、儀式ばって、よいこととして、私を殺す。ああ!
 かわいそうな娘よ! お前の父をだよ。父はお前をあんなに愛していた。お前の白いかぐわしい小さな首にいつも接吻していた。絹にでも手をあてるようにして、お前の髪の渦巻の中にしじゅう手を差し入れていた。お前のかわいいまるい顔を、てのひらにのせていた。お前を膝の上に跳んだりはねたりさしていた。そして晩には、神に祈るために、お前の小さな両手を合わしてやっていた。
 そういうことを、これから誰がお前にしてくれるだろうか。誰がお前を愛してくれるだろうか。お前くらいの年齢の子供たちにはみな父親があるだろう。ただお前だけにはない。お正月に、お年玉や美しい玩具やお菓子や接吻などを、お前はどうしてなくてもすませるようになるかしら。――不幸な孤児のお前は飲み物や食べ物をどうしてなくてもすませるようになるかしら。
 ああ、もしあの陪審員らがせめて彼女を見たなら、私のかわいい小
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