ウなマリーを見たなら、三歳の子供の父親を殺してはいけないということを、了解したろうに。
 そして彼女が大きくなったら、それまでもし生きてるとすれば、彼女はどうなるだろう。父親のことがパリの人々の頭に残ってるにちがいない。彼女は私のことと私の名前とに顔をあからめるだろう。彼女は私のせいで、心にあるかぎりの愛情で彼女を愛してる私のせいで、軽蔑され排斥され卑しめられるだろう。おお私のいとしい小さなマリーよ! 本当にお前は私を恥じ私をきらうだろうか。
 みじめにも、何たる罪を私は犯したことか、そして何たる罪を私は社会に犯させようとしてることか!
 ああ、今日の日の終らないうちに私が死ぬというのは、はたして本当なのか。本当にそれは私なのか。外に聞こえるあの漠然たる叫び声、もう河岸通りを急いでいるあの愉快げな人波、衛舎のなかで用意をしているあの憲兵ら、黒い長衣をつけてるあの司祭、まっかな手をしてるあのもう一人の男、それは私のためなんだ。死ぬのは私なんだ。ここに、生きて、動いて、息をして、このテーブルに、普通のこのテーブルに座っていて、そしてどこにでもいることのできる、この同じ私なんだ。自分でさわっ
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