uわかった。つまり、坊主みてえだ……」
 それから、しばらくだまってた後で、彼はほとんどおずおずと言った。
「ねえ、あなたは侯爵だ、それはいい。だが立派なフロックを着ていなさる。もうそれもたいした役にも立つめえ。首切り人が取っちまうだろう。俺にくれませんかな。売り払ってたばこの代にするんだが。」
 私はフロックをぬいで、彼に渡した。彼は子供のように喜んで手をたたいた。それから、私がシャツだけで震えてるのを見て言った。
「寒いんでしょうな。これを着なさるがいい。雨が降ってる。ぬれますぜ。それに、車の上じゃあ体裁もある。」
 そう言いながら、彼は灰色の厚っぽい毛糸の上衣をぬいで、私の腕に持たした。私は彼のするままにまかせた。
 そのとき私は壁のところに行って身を支えた。言葉につくせない感銘をその男から受けたのだった。彼は私からもらったフロックを調べていて、たえず喜びの声をたてた。
「ポケットはどれも真新しだ。えりもすりきれていねえ。――少なくも十五フランは手にはいるな。なんてありがてえことだ。あと六週間のたばこができた!」
 扉が開いた。彼らは私たち二人を連れにきた、私のほうは死刑囚が最後
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