Aお前!」
私はぼうぜんとして聞いていた。彼ははじめの時よりなお高く笑いだして、私の手をとろうとした。私は嫌悪のあまり後にさがった。
「お前は、」と彼は言った、「元気らしくねえよ。死に目にびくびくするもんじゃねえ。そりゃあ、お仕置場でちょっとの間はつれえさ。だがじきにすんじまわあ。俺がそこでとんぼ返りをするところをお前に見せてやりてえもんだな。まったくだ、今日お前と一緒に刈り取られるんなら、俺は上告をよしちまいてえ。おなじ司祭が俺たち二人に用をしてくれる。お前のおあまりをいただいてもいいさ。ねえ俺はいい子だろう。え、どうだ、仲よくさ!」
彼はなお一歩私に近寄ってきた。
「どうかあなた、」と私は彼を押しのけながら答えた、「ありがとう。」
その言葉で、彼はまた笑いだした。
「ほほう、あなた、あなたさまは侯爵かね、侯爵だな。」
私はそれをさえぎった。
「きみ、ぼくは考えたいんだ。ほっといてくれ。」
私の言葉がごくまじめな調子だったので、彼は突然考えこんだ。灰色のもうはげかかってる頭を動かし、それから、だらけたシャツの下にむきだしになってる毛深い胸を爪でかきながら、口でつぶやいた。
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