ィ前にもわかったらしいな。」
 実際私は顔色が変わり、髪の毛がさかだっていた。それはもう一人の受刑人、その日の死刑囚、私の後継者としてビセートルで待ち受けられている男だった。
 彼は言いつづけた。
「どうもね、身の上を話しゃあこういうわけさ。俺は立派な熊手〔泥棒〕の息子なんだ。ところが残念なことに、首切り人のやつご苦労にも、ある日親父にネクタイ〔絞首の縄〕を結んじゃった。ありがたくもねえ、首吊り柱の時代なんだ。六つの年に、俺にはもう親父も母親もなかった。夏には、路傍の埃のなかに逆立ちをして駅馬車の窓から一スー二スーを投げてもらった。冬には、はだしで泥のなかを歩いてさ、まっかになった手に息を吐きかけた。ズボンの破れからしりがのぞいてるしまつだ。九つになるとお手が役立ってきた。ときどき、懐中をひっこぬいたり、マントをくすねたりした。十の年には、立派な巾着切《きんちゃくき》りさ。それから知合いもできてきた。十七の頃には、立派などろちゃんだ。店を破り、錠をねじあける。とうとうつかまった。もうその年齢だったんで船こぎのほうにやらされちゃった。徒刑場ってつらいもんだぜ。板の上に寝るし、真水を飲み、
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