ゥ、またどれくらいそこにいたか、自分でもわからないが、ふいに、激しい笑い声が耳に響いて、夢想からさめた。
私はぞっとして目をあげた。室の中には私一人きりではなかった。一人の男が私と一緒にいた。五十歳ほどで、ふつうの背丈で、しわがより、背がかがみ、髪は白くなりかかり、ずんぐりした手足をし、灰色の目に斜視の目つきをし、顔に苦笑をうかべ、不潔で、ぼろをまとい、なかば裸体で、見るもいやなほどの男だった。
私が気づかぬうちにいつのまにか、扉が開いて、その男を吐き出し、それからまた閉まったものらしい。もしも死がそういうふうにして来るものなら!
私たちは数秒のあいだじっと見合った、男のほうは最期のあえぎに似たその笑いを長びかせながら、私のほうはなかば驚きなかば恐れて。
「誰です?」と私はついに言った。
「ばかなおたずねだな。」と彼は答えた。「あがったりだよ。」
「あがったり! 何です、それは?」
その問いは彼をますます上機嫌にした。
「それはな、」と彼は大笑いをしながら叫んだ、「首切り人が六時間後にお前の切り株にじゃれるように、六週間後には俺のソルボンヌにじゃれるってことさ。――ははは、もう
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