烽「てるうちは、私はほとんど自由な気楽な心地だった。しかしやがて私の決意はくじけてしまった。低い扉や、秘密の階段や、内部の通路や、奥よりこもった長い廊下などが、私の前に開かれた。処刑する者と処刑される者しかはいらない場所である。
 執達吏はやはり私についてきていた。司祭は私から離れて、二時間ほどしたらまたやってくることになっていた。彼は自分の用があるのだった。
 私は典獄の室に導かれて、執達吏から典獄の手にわたされた。それは一つの交換だった。典獄は執達吏にちょっと待ってくれるようにたのんで、引き渡すべき獲物[#「獲物」に傍点]が来るはずだから、それをすぐに帰りの馬車でビセートルへ連れていってもらいたいと言った。きっと今日の死刑囚で、すり切らすだけの時日が私にはなかったあの藁たばの上に今晩寝るはずの、その男のことにちがいない。
「承知しました。」と執達吏は典獄に言った。「しばらく待ちましょう。ごいっしょに二つの調書をこしらえるとしましょう。うまくいくでしょう。」
 そのあいだ、私は典獄の室のつぎの小さな室に入れられた。そこに厳重に閉めこまれて一人きりにされた。
 私は何のことを考えていた
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