ノも音高く速やかに進んでいったので、外部の物音はもうすこしも私の耳にはいらなかった。しかし四角な小さなのぞき窓からちらと見ると、通りがかりの人波が立ちどまって馬車を眺めてるように思われるし、子供の群れが馬車の後をつけて走ってくるように思われた。またときどき、四つ辻のあちらこちらで、ぼろをまとった男や老婆が、時とすると二人そろって、印刷した紙の一たばを手に持って、大声で叫んでるらしく口を開き、その紙を通行人が奪い合ってるのが、見てとられるようにも思われた。
 パレ・ド・ジュスティスの大時計が八時半を打ってる時に、私たちはコンシエルジュリーの中庭に着いた。その大きな階段、その黒い礼拝堂、その多くの不気味なくぐり戸などを見て私はちぢみあがった。馬車がとまった時には、自分の心臓の鼓動もとまりかかってるような気がした。
 私は力をふるいおこした。馬車の扉は電光のような速さで開かれた。私はその移動監房からとびおりた。そして二列の兵士らのあいだを穹窿《きゅうりゅう》の下へ、大股にはいりこんでいった。私の通り路にはすでに人だかりがしていた。

       二三

 パレ・ド・ジュスティスの公共回廊を
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