諱Bあなたのほうはどうかっていえば、まったく考えこんでいますね、若いのに。」
「若い!」と私は彼に言った。「あなたよりも年とっています。四半時間ほどたつごとに一年ほど年をとるんですから。」
 彼はふりむいて、愚かな驚きのふうでしばらく私を眺めた。それから重々しい冷笑の調子をとった。
「御冗談でしょう、私より年とってるなんて! 私はあなたのおじいさんともいえるほどですがね。」
「私は冗談を言ってるんじゃありません。」とまじめに私は答えた。
 彼は嗅ぎたばこ入れを開いた。
「ねえ気を悪くしちゃいけませんよ。まあ一服なすって、私を悪く思わないでください。」
「お気づかいにはおよびません。悪く思おうとしても、もう長いことではないでしょうから。」
 その時、彼が私にさし出してるたばこ入れは間をへだてている金網にあたった。それも、馬車の動揺のためにかなり激しくぶつかって、開いたまま憲兵の足の下に落ちた。
「金網のやつめ!」と執達吏は叫んだ。
 彼は私のほうへ向いた。
「これはどうも、困りました。たばこをすっかりなくして!」
「あなたよりもっと多くのものを私はなくしています。」とほほえみながら私は答
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