ウさや》きのように私の考えを眠らせ、街道のまがりくねった楡《にれ》の木のように、どれも異なってはいるがどれも同じようで、私の前を通りすぎていった。その時、前部に乗ってる執達吏の短い荒い声が、突然響いて私をはっとさせた。
「ねえ、司祭さん、」と彼はほとんど快活な音調で言っていた、「なにか変わったことはありませんか。」
 彼がふりむいてそう話しかけてるのは司祭へだった。
 教誨師はたえまなく私に口をきいていたし、馬車の響きに耳をふさがれていたので、返事をしなかった。
「いやはや、」と執達吏は車輪の音にうち勝つため声を高めて言った、「地獄のような馬車だ。」
 地獄の! 実際そうである。
 彼は言いつづけた。
「まったく、がたがたの混沌界《こんとんかい》だ。言葉も通じやしない。何のことを言ってたのかしら。司祭さん、何のことでしたかね。――ああそう、あなたはパリの大事件を知っていますか、今日の……」
 私は自分のことを話されているかのようにぞっとした。
「いいえ。」と司祭はついに聞きとって言った。「けさ新聞を読むひまがなかったものですから。晩に見てみましょう。私はこんなに一日じゅうふさがってると
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