チた、「パリ法廷づきの執達吏です。検事長殿からの通牒を持って来ました。」
 最初の惑乱はもう過ぎ去っていた。私はすっかりもとの沈着にかえっていた。
「検事長がそんなに私の首をほしがったのですか。」と私は答えた。「通牒を書いてくれたのは、私にとって光栄の至りです。私の死が彼に大きな喜びをもたらさんことを希望します。彼があれほど熱心に要求してる私の死が、じつは彼にとってどうでもよいことだなどとは、どうにも考えられませんからね。」
 私はすっかりそう言って、それからしっかりした声でつづけた。
「読んでください。」
 彼はその長い主文を、各言葉のまんなかではためらうように、各行の終りではうたうようにして、私に読んできかした。それは私の上告の却下だった。
「判決は今日グレーヴの広場で執行されることになっています。」と彼は読み終えた時まだその公文書から目をあげないで言い添えた。「正七時半にコンシエルジュリーへ出かけるのです。私と一緒に来ていただけますか。」
 すこし前から私はもう彼の言葉に耳をかしていなかった。典獄は司祭と話をしていた。執達吏はその公文書の上に目をすえていた。私は扉のほうを眺めてい
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