B私の周囲はすべて監獄である。あらゆる物の形に監獄がひそんでいる、人間の形にも、鉄門や閂の形にも。この壁は石の監獄であり、この扉は木の監獄であり、あの看守らは肉と骨との監獄である。監獄は一種の恐ろしい完全な不可分な生物であって、なかば建物でありなかば人間である。私はそれの虜《とりこ》となっている。それは私を翼でおおい、あらゆる襞《ひだ》で抱きしめる。その花崗岩《かこうがん》の壁に私を閉じこめ、その鉄の錠の下に私を幽閉し、その看守の目で私を監視する。
ああみじめにも、私はどうなるのであろう? どうされるのであろう?
二一
今はもう私は平静である。万事終った、すっかり終った。典獄が訪れてきたため恐ろしい不安におちいったが、もうそれからも出てしまった。うちあけて言えば、前には私はまだ希望をいだいていた。――今や、ありがたいことには、もう何の希望もなくなった。
次のようなことがおこったのである。
六時半が鳴ってる時に――いや、六時十五分だった――私の監房の扉はまた開かれた。褐色のフロックを着た白髪の老人がはいってきた。老人はフロックの前をすこし開いた。法衣と胸飾りとを
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