ノはいってきて、帽子をぬぎ、会釈《えしゃく》をし、邪魔するいいわけをして、荒々しい声をできるだけやわらげながらたずねた、朝食になにか食べたいものはないかと……。
 私は戦慄を覚えた。――今日なんだろうか?

       一九

 今日なんだ!
 典獄も自分で私を訪れてきた。私の意にかなうためになることをしてやりたいが何かないかとたずね、彼やその部下の者たちをうらむことのないようにと希望する旨を述べ、私の健康のことや前夜をどういうふうにすごしたかということを、興味深く聞きただした、そして別れぎわに、私をきみ[#「きみ」に傍点]と呼んだ。
 今日なんだ!

       二〇

 あの獄吏は、私が彼やその部下の者らをうらむべきところはないと思っている。道理なことだ。うらみに思えば私のほうが悪いだろう。彼らはその職務をつくした。私を立派に保護した。そのうえ、私が到着の時と出発の時にはていねいだった。私は満足すべきではないか。
 この善良な獄吏は、そのほどよい微笑と、やさしい言葉と、慰撫しかつ探索する目と、太い大きな手とをもってして、まったく監獄の化身であり、ビセートルが人間化したものである
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