轤フ話から私はそのことを聞きとった。彼らは檻《おり》の中の私を見に来て、動物園の獣のように私を遠くから見ていった。看守はそれで百スーもらった。
 言うのを忘れていたが、私の監房の扉には昼も夜も番人がついていて、その四角な穴のほうへ目をあげると必ず、いつも打ち開いて見すえているその二つの目にでっくわす。
 それでも、この石の箱の中に空気と昼の光とがあるものとされている。

       一一

 まだ明るくなっていないし、夜の間をどうしたものだろう。私はあることを考えついた。私は起きあがって、監房の四方の壁にあちこちランプをさしつけた。文字や絵やおかしな顔や名前などがいっぱい書いてあって、互いに入り組み消し合っている。各囚人がみな、少なくともここに、なんらかの跡を残そうとしたものらしい。鉛筆のも白墨のも炭のもあるし、黒や白や灰色の文字があるし、石の中に深く刻みこまれてるのが多く、血で書かれたかのような錆《さ》びてる字体もところどころにある。確かに私は、もしも自分の精神がもっと自由だったら、この監房の石の一つ一つの上に、自分の目の前に、一ページずつひろがってゆくそのふしぎな書物に対して、興
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