j滅させられる。それが正義なのだ!
年老いた憐れな母のことを私は心配するのではない。彼女はもう六十四歳になっていて、この打撃で死ぬだろう。あるいはなお数日生きながらえるとしても、最後のまぎわまでその懐炉《かいろ》の中に多少の温い灰がありさえすれば、なにも不平をこぼさないだろう。
妻のことも私の気にはかからない。彼女はもうすでに健康を害してるし精神も弱ってる。やはり死ぬだろう。
さもなければ狂人になるか。狂人は生きながらえるそうだ。しかし少なくとも、その精神はもう苦しまない。精神は眠って、死んだも同様である。
けれども、私の娘、私の子、今もなお笑いたわむれ歌っていて、なんにも考えていない、あの憐れな小さなマリー、それが私の心を苦しめる。
一〇
私の幽閉監房はつぎのとおりである。
八ピエ四方〔一ピエは約三十センチ〕。四方切石の壁で、そとの廊下から一段高くなってる敷石の床の上に、それが直角につっ立っている。
外からはいると扉の右手に、奥まったところがあって、人をばかにした寝所となっている。そこにひとたばの藁《わら》が投げだしてある。囚人は夏も冬も、麻のズボンに
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