フ木組みが釘づけされる音が聞こえ、パリの四つ辻には呼売人が嗄《しわが》れた声をはりあげて叫ぶのが聞こえる。
全部で六週間。あの若い娘が言ったことはもっともだ。
ところで、私がこのビセートルの監房にやってきてから、数えるのもつらいが、少なくとも五週間、あるいは六週間たっているかもしれない。そして、三日前が木曜日だったようだ。
九
私は遺書を書いた。
でもそれが何になるか。私は訴訟費用負担を言い渡されてる。そして私の家産はそれにもたりないだろう。断頭台、それはいかにも高価なものだ。
私の後には、一人の母が残る、一人の妻が残る、一人の子供が残る。
三歳の小さな女の子で、ばら色でやさしくよわよわしく、黒い大きな目をし、栗色の長い髪を生やしている。
最後に私が見た時は、その子は二年と一か月だった。
かくて、私の死後には、子がなく夫がなく父がない三人の女が残る。各種の三人の孤独者だ。法律から作られた三人の寡婦《かふ》だ。
私は自分が正当に罰せられてることを認める。しかしそれら三人の無辜《むこ》の者は、いったい何をしたのか。ただ無鉄砲に、彼らは不名誉を担わせられ、
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