w《かふ》であるかのようだ。盗人の頭は二つの名前をもっている。考えたり理屈をこねたり罪悪をすすめたりする時には、ソルボンヌ大学[#「ソルボンヌ大学」に傍点]と言い、死刑執行人に切られる時には、切株[#「切株」に傍点]となる。また時とすると、通俗喜劇めいた才気を示すこともある。柳の肩掛け[#「柳の肩掛け」に傍点]――屑屋の負籠《おいかご》。嘘つき[#「嘘つき」に傍点]――舌。またいたるところに絶えず由来のわからない奇態なふしぎな醜い下品な言葉が出てくる、かなとこ[#「かなとこ」に傍点]――死刑執行人。松ぼっくり[#「松ぼっくり」に傍点]――死。押入れ[#「押入れ」に傍点]――死刑場。まるで蟇《がま》や蜘蛛《くも》の言葉のようだ。その言葉が話されるのを聞く時には、何か汚ならしい埃まみれのもののような気がし、ひとたばのぼろ布を顔の前で打ち振られるような気がする。
 少なくともその男たちは私を憐れんでくれる。その男たちだけだ。獄吏や看守や鍵番らは――私はそれを怨《うら》むのではないが――話し合ったり笑ったりしていて、私の前ででも私のことを一個の物のように話している。

       六

 私
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