「一使用人が、どうでもよいことなのに、椅子から立ちあがって、「さて、もう誰も死刑廃止のことを考えていないから、また首切りをはじめてみるかな。」と言ったとすれば、その男の心のなかには、きわめて奇怪な何かがおこったにちがいない。
 それにまた、あえていえば、この七月の猶予撤回の後、死刑執行にはもっとも恐ろしい事故がともなって、グレーヴ刑場の話はもっともいまわしいものとなり、死刑の呪うべきことをもっともよく証明した。そして人の嫌悪を倍加させたことは、死刑法をふたたび実施した人々の受ける正当な懲罰である。彼らはそのなせるわざによって罰せられてあれ。あっぱれ出来《しゅったい》したるものかな。
 死刑執行が往々にしていかに恐ろしい非道なものであるかについて、ここに二、三の実例をあげなければならない。検事夫人らの神経を痛ませなければならない。女は時として良心である。
 昨年の九月の末ごろ、南方で、たぶんパミエでだったと思うが、その場所や日や囚人の名前は今はっきり覚えていない。しかし事実を否定する者があったら、それを探し出してみせてもよい。で、九月の末ごろ、一人の男が監獄のなかで、落ち着いてカルタをや
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