ワた集まるのが、私の茫然とした目にも見えた。
ポン・トー・シャンジュの橋にさしかかった時、私はふと右手後ろのほうを見やった。するとむこう岸に、人家の上方に、彫像のいっぱいついている黒い塔が一つぽつりと立ってるのが目についた。その頂上に、横向きに座ってる二つの石の怪物が見えていた。なぜだかわからないが、私はそれが何の塔だか司祭にたずねた。
「サン・ジャック・ラ・ブーシュリーの塔です。」と死刑執行人は答えた。〔ラ・ブーシュリーは普通の言葉では屠殺所のこと。〕
靄《もや》がかかっていたし、こまかな白い雨脚が蜘蛛《くも》の巣をはったようになっていたが、それでも周囲に起こることはみな、どうしてだかわからないが、なにひとつ私の目をのがれなかった。そしてそのひとつひとつの事柄が私を悩ました。その感じはとうてい言葉にはつくされない。
ポン・トー・シャンジュの橋は広かったが、やっとのことでしか通れないほど人でいっぱいになっていた。その橋の中ほどで、私は急激な恐怖の念に襲われた。私は気を失いはしないかと心配した。最後の見栄《みえ》だ。で私は自ら自分をごまかして、なにも見ずなにも聞かないで、ただ司祭の
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