アとだろうか。
それにまた、人生は私にとってなんでこんなに名残り惜しいのか。実際のところ、監獄の薄暗い日と黒いパン、囚人用のバケツから汲み取られた薄いスープの分け前、教育を受けて啓発されてる身でありながら、手荒く取り扱われ、看守や監視らから虐待され、ひとこと言葉をかわすにたりる者と思ってくれる一人の人もなく、自分のしたことに絶えずおののき、人からどうされるだろうかということに絶えずおののいている、ただほとんどそれだけのことが、死刑執行人が私から奪いうるものではないか。
ああ、それでもやはり、恐ろしいことだ!
四
黒い馬車は私をここに、この呪わしいビセートルに運んだ。
ある距離をへだてて遠くから見ると、この建物はあるおごそかさをもっている。丘の上に地平線上にひろがっていて、昔の光輝の多少を、王城の様子を、なお失わずにいる。しかし近寄ってゆくにしたがって、その宮殿は破家《やぶれや》となってくる。破損してるその切妻は見るにたえない。なんともいえぬ賤《いや》しいみすぼらしい風《ふう》が、その堂々たる正面をけがしている。壁はらい病に冒されたようである。もうガラス戸もなけ
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