い馬車が私を待っていた。それに乗る時、私はどこということもなく広場の中を眺めた。死刑囚と叫びながら通行人らは馬車のほうへ駆けてきた。私は自分と他物との間におりてきたように思われる靄《もや》をとおして、むさぼるような目つきであとについてくる二人の若い娘を見てとった。その年下のほうは手をたたきながら言った。
「いいわね、六週間後でしょう!」

       三

 死刑囚!
 ところで、それがどうしていけないか。私は何かの書物の中で読んだのであるが、ためになることはただそれだけだったのを覚えている。すなわち、人はみな不定期の猶予つきで死刑に処せられている[#「人はみな不定期の猶予つきで死刑に処せられている」に傍点]。それではいったい私の地位に何がこんな変化をもたらしたのか。
 私に判決がくだされた時から今までに、長い生涯を当てにしていたいくばくの人が死んだことか。若くて自由で健康であって、某日グレーヴの広場で私の首が落ちるのを見に行くつもりでいた者で、いくばくの人が私より先立ったことか。今からその日までの間に、戸外を歩き大気を吸い自由に外出し帰宅している者で、なおいくばくの人が私に先立つ
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