その時、外部に通ずる戸口の両の扉がさっと開かれた。激しい喧騒の声と冷たい空気と白っぽい光とが、影のなかに私のところへまではいりこんできた。私は薄暗い戸口の奥から、雨のなかをすかして、すべてを急に一度に見てとった。パレ・ド・ジュスティスの大階段の斜面にごっちゃに積み重なってる人々の、喚き立ててる無数の頭。右手には、入口と同平面に、戸口が低いので私には馬の前足と胸としか見えないが、騎馬の憲兵の一列。正面には、展開している一隊の兵士。左手には、急なはしごが立てかけてある荷馬車の後部。すべて監獄の戸口にはめこまれた一幅の醜悪な画面だ。
 その恐るべき瞬間のために私は勇気をたくわえておいたのだった。私は三歩進んで、くぐり戸の出口にあらわれた。
「あれだ、あれだ!」と群集は叫んだ。「とうとう、出てきた。」
 そして私に近い者らは手をたたいた。人民からいかに愛されてる国王であろうと、これほどの歓迎はされないだろう。
 車はふつうの荷馬車で、痩《や》せこけた馬が一頭つけられていて、ビセートル付近の野菜作りらが着るような赤い模様の青の上っ張りを着てる、荷馬車ひきが一人ついていた。
 三角帽の大きな男
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