チた。が、やがてそのシャツのえりを切りはじめた。
私はその恐ろしい用心を見てとり、首にふれる刃物の感触が身にしみて、両肱がふるえ、息をつめたうなり声をもらした。えりを切ってる男の手はふるえた。
「どうか、ごめんください。」と彼は私に言った。「どこか痛かったのですか。」
その死刑執行人はきわめて穏和な人間だ。
群集は外部でますます高くわめいていた。
顔に吹出物のある大きな男は、私に嗅がせるため酢にひたしたハンカチを差し出した。
「ありがとう。」と私はできるだけ強い声で彼に言った。「それにはおよびません。大丈夫です。」
すると彼らの一人は身をかがめて、小股でしか歩かれないようなふうに、私の両足を巧妙にゆるく縛った。その綱は両手の綱へ結びつけられた。
それから大きな男は、上衣を私の背に投げかけ、その両袖の先を私のあごの下でゆわえた。なすべきことはすっかりなされた。
そこで司祭が十字架像を持って近寄ってきた。
「さあ、あなた。」と彼は私に言った。
死刑執行人の助手たちは私の両脇をとらえた。私は持ちあげられて歩いた。私の足には力がなく、両方に膝が二つずつもあるかのようにまがった。
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