ツいてる助手だった。
 私が腰をおろすや否や、その二人が後ろから猫のように近寄ってきた。それから突然、私は刃物の冷たさを髪のなかに感じた。はさみの音が耳に響いた。
 私の髪の毛は手当りしだいに切られて、ひと房ずつ肩の上に落ちた。三角帽の男はそれを太い手で静かにはらいのけた。
 周囲では人々が低い声で話していた。
 戸外には、空中にうねってる振動のような大きな音がしていた。私ははじめそれを河の音と思った。しかしどっとおこる笑い声を聞いて、群集であることがわかった。
 窓のそばにいて手帳に鉛筆で何か書いてた若い男が、看守の一人にそこでなされてる事柄は何というのかたずねた。
「受刑人の身じたくです。」と看守は答えた。
 それが明日の新聞に出ることを私は悟った。
 突然助手の一人は私の上衣を脱ぎ取った。もう一人の助手は私の垂れてる両手をとらえ、それを背後にまわさせた。そして私は合わさってるその両の手首のまわりに、綱の結び目が徐々にできてくるのを感じた。と同時に、一方の助手は私のネクタイをといた。昔の私自身の唯一のなごりの布きれであるバチスト織のシャツに、彼はちょっと躊躇《ちゅうちょ》したらしか
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