B」
「でも読んでごらん。さあ、お読みよ。」
 彼女は紙を広げて、指で一字一字読みはじめた。
「は、ん、け、つ、はんけつ……」
 私はそれを彼女の手からつかみ取った。彼女が読んできかせるのは私の死刑宣告文だった。女中がそれを一スーで買ったのだ。が、私にははるかに高価なものだった。
 私がどういう気持を覚えたかは、言葉にはつくされない。私の激しい仕打ちに彼女はふるえていた。
 ほとんど泣きだしかけていた。が、突然私に言った。
「紙を返してよ。ね、今のはうそね。」
 私は彼女を女中にわたした。
「つれていってくれ。」
 そして私は陰鬱なさびしい絶望的な気持で椅子に身をおとした。いまこそ彼らはやってきてもよい。私にはもう何の未練もない。私の心の最後の糸のひとすじも切れた。彼らがなさんとする事柄に私はちょうどふさわしい。

       四四

 司祭は善良な人だし、憲兵もそうである。子供をつれていってほしいと私が言ったとき、彼らは一滴の涙を流したようだった。
 済《す》んだ。いまや私はしっかりと身を持さなければならない。死刑執行人のこと、護送馬車のこと、憲兵らのこと、橋の上の群集、河岸の上の
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