サして天にいるのよ。」
 彼女は自分でつづけて言った。
「あたし、ママのお膝で、朝と晩、パパのため神様にお祈りするの。」
 私は彼女の頬に接吻した。
「マリー、私にお前の祈りを言っておくれ。」
「だめよ、おじちゃま。お祈りって、昼間言うもんじゃないの。今晩おうちにいらっしゃい。言ってあげるわ。」
 それでもう十分だった。私は彼女の言葉をさえぎった。
「マリー、お前のパパは、私だよ。」
「え!」と彼女は言った。
 私は言いそえた。
「私がお前のパパでいいかい。」
 子供は顔をそむけた。
「いいえ、パパはずっときれいだったわ。」
 私は彼女に接吻と涙とをあびせた。彼女は私の腕からのがれようとしながら叫んだ。
「おひげが痛い。」
 そこで私はまた彼女を膝の上に座らせて、しきりに眺めて、それからたずねかけた。
「マリー、お前は字が読めるの。」
「ええ。」と彼女は答えた。「ちゃんと読めるわ。ママはあたしに字を読ませるの。」
「では、すこし読んでごらん。」と私は言いながら、彼女が小さな片手にもみくちゃにしている紙きれを指さした。
 彼女はそのかわいい頭をふった。
「ああ、おとぎばなしきり読めないの
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