yは適宜の時にいつでも得られるものと安心し、自分の快楽のための仕事を他人に任せきりでいる。ところで、その男もお前と同様に肉と骨とから成っているのだ。――そして、今すぐにあの恐るべき死刑台が取り壊されるためには、生命と自由と財産と家庭とすべてがお前に返されるためには、このペンで彼が一枚の紙の隅に自署するだけでたりるし、あるいは彼の箱馬車がお前の荷馬車に出会うだけでもたりる。――そして、彼は善良だし、おそらく右のことは彼の望むところだろうし、また彼にとって何でもないことだろう!

       四一

 さあ、死に対して元気を出そう。その恐ろしい観念を両手に取りあげて、それをまともにじっと眺めよう。それがどんなものであるか探ってみよう。それがわれわれに求めるところは何であるか明らかにしよう。それをあらゆる方面から調べ、その謎を解き、その墳墓のなかを前もってのぞいてみよう。
 最期の目をつぶると、大きな明るみと光の罩《こ》めた深淵とが見えてきて、そのなかに自分の精神は、はてしなく飛んでゆくだろう、というように私には思われる。空はそれ自身の精気で輝きわたって、そこではもろもろの星も暗い汚点とな
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