ウれてしまう。――が彼らはかつて、重い刃が落ちて肉を切り神経を断ち頸骨をくだく瞬間に、そこにいる者のかわりに自ら身を置いてる場合を、せめて頭のなかだけででも考えてみたことがあるか。なに、ほんの半秒のあいだだ、苦痛はごまかされると……。呪うべきかな!
四〇
妙なことに、私はたえず国王のことを考える。どんなにしても、どんなに頭を振っても、一つの声が耳に響いて、いつも私に言う。
「この同じ町に、この同じ時間に、しかもここから遠くないところに、もう一つの壮大な建物のなかに、やはりどの扉にも番人のついてる一人の男がいる。お前と同じく民衆のなかの唯一の男であって、お前が最下位にあるのと彼が最上位にあるのとの違いだけだ。彼の生涯はすべてどの瞬間も、光栄と権威と愉悦と恍惚ばかりである。彼のまわりは、愛と尊敬と崇拝とに満ちている。もっとも高い声も彼に話しかける時には低くなり、もっとも傲慢な額も彼の前には下にかがむ。彼の目にふれるものは絹と黄金ばかりである。いまごろ彼は、誰も彼の意にさからう者のない閣議にのぞんでいるか、あるいはまた、明日の狩猟のことや今晩の舞踏会のことを考えていて、宴
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