で叫んだ。「タルマの弟子《でし》でございます、旦那《だんな》、私はタルマの弟子でございます。昔は万事都合がよろしゅうございましたが、只今では誠に不運な身の上になりました。旦那ごらん下さいまし、パンもなければ火もございません。ただ一つの椅子《いす》は藁《わら》がぬけ落ちています。こんな天気に窓ガラスはこわれています。それに家内まで寝ついていまして、病気なのでございます。」
「御気の毒に。」とルブラン氏は言った。
「子供までけがをしています。」とジョンドレットは言い添えた。
小娘は知らない人がきたのに紛らされて、「お嬢様」をながめながら泣きやんでいた。
「泣けったら、大声に泣けよ。」とジョンドレットは彼女に低くささやいた。
と同時に彼はそのけがした手をつねった。彼はそれらのことを手品師のような早業《はやわざ》でやってのけた。
娘は大声を立てた。
マリユスが心のうちで「わがユルスュール」と呼んでいた美しい若い娘は、すぐにその方へやっていった。
「まあかわいそうなお子さん!」と彼女は言った。
「お嬢様、」とジョンドレットは言い進んだ、「この血の出ている手首をごらん下さいまし。日に六スーずつもらって機械で仕事をしていますうちに、こんなことになりました。あるいは腕を切り落とさなければならないかも知れませんのです。」
「そうですか。」と老人は驚いて言った。
小さな娘はその言葉を本気に取って、いかにもうまく泣き出した。
「全くのことでございまして、実にどうも!」と父親は答えた。
しばらく前からジョンドレットは、その慈善家を変な様子でじろじろながめていた。口をききながらも、何か記憶を呼び起こそうとでもするように、注意して彼の様子を探ってるらしかった。そして新来のふたりが小娘にその負傷した手のことを同情して尋ねてる間に乗じて、彼は突然、ぼんやりした元気のない様子で寝床に横たわってる女房のそばへ行き、低い声で言った。
「あの男をよく見ておけ!」
それからルブラン氏の方を向き、哀れな状態を口説き続けた。
「旦那《だんな》、ごらんのとおり私は、着る物とては家内のシャツ一枚きりでございまして、それもこの冬の最中にすっかり破れ裂けています。着物がないので外に出られないような始末でございます。着物一枚でもありましたら、私はマルス嬢([#ここから割り注]訳者注 当時名高い女優[#ここで
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