じゅす》の外套《がいとう》の下に隠されていた。長い上衣の下からは絹の半靴《はんぐつ》にしめられた小さな足が少し見えていた。
 彼女はやはりルブラン氏といっしょだった。
 彼女は室《へや》の中に数歩進んで、テーブルの上にかなり大きな包みを置いた。
 ジョンドレットの姉娘は、扉《とびら》の後ろに退いて、そのビロードの帽子、その絹の外套、またその愛くるしい幸福な顔を、陰気な目つきでながめていた。

     九 泣かぬばかりのジョンドレット

 部屋はきわめて薄暗かったので、外からはいってくるとちょうど窖《あなぐら》へでもはいったような感じがする。それで新来のふたりは、あたりのぼんやりした物の形を見分けかねて、少しく躊躇《ちゅうちょ》しながら進んできた。しかるに家の者らは、屋根裏に住む者の常として薄暗がりになれた目で、彼らの姿をすっかり見て取ることができて、じろじろうちながめていた。
 ルブラン氏は親切そうなまた悲しげな目つきで近づいてきて、ジョンドレットに言った。
「さあこの包みの中に、新しい着物と靴足袋《くつたび》と毛布とがはいっています。」
「神様のような慈悲深いお方、いろいろありがとう存じます。」とジョンドレットは頭を床にすりつけんばかりにして言った。――それから、ふたりの客があわれな部屋《へや》の内部を見回してる間に、彼は姉娘の耳元に身をかがめて、低く口早に言った。
「へん、俺が言ったとおりじゃねえか。ぼろだけで、金は一文もくれねえ。奴《やつ》らはみんなそうだ。ところでこの老耄《おいぼれ》にやった手紙には、こちらの名前は何として置いたっけな。」
「ファバントゥーよ。」と娘は答えた。
「うむ俳優だったな、よし。」
 それを思い出したのはジョンドレットに仕合わせだった。ちょうどその時ルブラン氏は、彼の方へ向いて、名前を思い出そうとしてるような様子で彼に言った。
「なるほどお気の毒です、ええと……。」
「ファバントゥーと申します。」ジョンドレットは急いで答えた。
「ファバントゥー君と、なるほどそうでしたな、ええ覚えています。」
「俳優をしていまして、元はよく当てたこともございますので。」
 そこでジョンドレットは、この慈善家を捕うべき時がきたと思い込んだ。で彼は、市場香具師《いちばやし》のような大げさな調子と大道乞食《だいどうこじき》のような哀れな調子とをないまぜた声
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