湿った薪《たきぎ》の上に灰をかぶせ、すっかりそれを埋めてしまった。
 それから立ち上がって、暖炉に寄りかかって言った。
「さあこれで慈善家を迎えることができる。」

     八 陋屋《ろうおく》の中の光

 姉娘は父親の所へ寄ってきて、彼の手の上に自分の手を置いた。
「触《さわ》ってごらん、こんなに冷いわ。」と彼女は言った。
「なあんだ、」と父は答えた、「俺《おれ》の方がもっと冷い。」
 母親は性急に叫んだ。
「お前さんはいつでもだれよりも上だよ、苦しいことでもね。」
「黙ってろ。」と男は言った。女は一種のにらみ方をされて黙ってしまった。
 陋屋《ろうおく》の中は一時静まり返った。姉娘は平気な顔をしてマントの裾《すそ》の泥を落としていた。妹の方はなお泣き続けていた。母親は両手に娘の頭を抱えてやたらに脣《くちびる》をつけながら、低くささやいていた。
「いい児だからね、泣くんじゃないよ、何でもないからね。泣くとまたお父さんに怒られるよ。」
「いやそうじゃねえ。」と父は叫んだ。「泣け、泣け。泣く方がいいんだ。」
 それから彼は姉娘の方へ向いて言った。
「どうしたんだ、こないじゃねえか。こなかったらどうする。火は消す、椅子《いす》はこわす、シャツは裂く、窓ガラスはこわす、そして一文にもならねえんだ。」
「おまけに娘にはけがをさしてさ!」と母親はつぶやいた。
「おい、」と父親は言った、「この屋根はべらぼうに寒いじゃねえか。もしこなかったらどうするんだ。これはまた何て待たせやがるんだ。こうも思ってるんだろう、『なあに待たしておけ、それがあたりまえだ!』本当にいまいましい奴らだ。締め殺してでもやったら、どんなにいい気持ちでおもしろくて溜飲《りゅういん》が下がるかわからねえ。あの金持ちの奴らをよ、みんな残らずさ。どいつもこいつも慈悲深そうな顔をしやがって、体裁ばかりつくりやがって、弥撒《ミサ》には行くし、坊主には物を送ったり阿諛《おべっか》を使ったりしやがる。そのくせ俺《おれ》たちより上の者だと思い込んで、恥をかかせにやってきやがる。着物を施すなんて言いながら、四スーも出せばつりがこようっていうぼろを持ってくるし、それにまたパンとくるんだ。そんなもの俺は欲しくもねえ。皆わからずやばかりだ。俺《おれ》が欲しいなあ金だ。ところが金ときては一文も出しやがらねえ。金をくれても飲んでしまう
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