はその言葉を聞き取った。
「死んだからって平等ということはねえんだ! ペール・ラシェーズの墓地を見てみろ。身分のある奴《やつ》らのは、金のある奴らのは、上手《かみて》の石の舗《し》いてあるアカシヤの並み木道にある。そこまで馬車で行けるんだ。身分の低い者、貧乏な者、不幸な者、なんかのはどうだ。みな下手《しもて》にある。泥が膝《ひざ》までこようって所だ、穴の中だ、じめじめしてる所だ。早く腐るようにそんな所へ入れられるんだ。墓まいりをするったって、地の中へめいり込むようにしなけりゃ行かれやしねえ。」
 そこで彼はちょっと言葉を切って、拳《こぶし》でテーブルの上をたたき、歯ぎしりしながら付け加えた。
「ええ、世界中を食ってもやりてえ!」
 四十歳くらいともまた百歳くらいとも見える太い女が、跣足《はだし》で暖炉のほとりにかがんでいた。
 女もただ、シャツ一枚と、古ラシャのつぎのあたったメリヤスの裳衣一枚をつけてるだけだった。粗布の前掛けが裳衣の半ばを隠していた。彼女は腰を折ってかがんではいたが、背はごく高そうに見えた。亭主と比ぶれば大女だった。白髪交じりの赤茶けたきたない金髪を持っていたが、爪の平たい艶《つや》のある大きな手でそれを時々かき上げていた。
 女のそばには、一冊の書物が開いたまま下に置いてあった。テーブルの上のと同じ体裁で、おそらく同じ小説の続きででもあろう。
 一方の寝床の上には、身体の細長い色の青い小娘が腰掛けてるのが見えていた。半裸体のままで、足をぶら下げ、何も聞きも見もせずまた生きてもいないような様子だった。
 確かに、マリユスの所へやってきた娘の妹に違いない。
 年齢は十一か十二くらいに見えた。しかしよく注意して見ると、十五歳にはなってるらしかった。前後大通りで「ただもう一目散よ[#「ただもう一目散よ」に傍点]」と言ったのは、その娘だった。
 彼女は長く小さいままでいてそれから急ににわかに伸びてゆく虚弱なたちの子供だった。赤貧がそういう哀れな人間を作り出すのである。彼らには幼年時代も少女時代もない。十五歳でまだ十二歳くらいに見え、十六歳では既に二十歳くらいにも見える。今日は小娘で、明日ははや一人前の女である。あたかも一生を早く終えんがために年をまたぐかのようである。
 今のところまだその娘は、子供の様子をしていた。
 それからまた、その住居のうちには何ら
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