家はまったく閉《し》め切って、窓に貸間の札もみえない。戸を叩いても返事がない。仕方がなしに引っ返そうとすると、となりの空地にビールの配達が白い金属の鑵《かん》をあつめていて、わたしのほうを見かえりながら声をかけた。
「あなたはそこの家で誰かをお尋《たず》ねなさるんですか」
「むむ。貸家があるということを聞いたので……」
「貸家ですか。そこはJさんが雇い婆さんに一週間一ポンドずつやって、窓の開《あ》け閉《た》てをさせていたんですがね。もういけませんよ」
「いけない。なぜだね」
「その家は何かに祟《たた》られているんですよ。雇い婆さんは眼を大きくあいたままで、寝床のなかに死んでいたんです。世間の評判じゃあ、化け物に絞《し》め殺されたんだと言いますが……」
「ふむう。そのJさんというのは、この家の持ち主かね」
「そうです」
「どこに住んでいるね」
「G町です」と、配達はその番地をも教えてくれた。
わたしは彼にいくらかの心付けをやって、それから教えられた所へたずねて行くと、主人のJ氏は都合よく在宅であった。J氏はもう初老を過ぎた人で、理智に富んでいるらしい風貌と、人好きのするような態度をそな
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