あって、それは階段の昇《あが》り場になんの交通もなく、わたしの寝室に通ずるただ一つのドアがあるだけであった。
 寝室の火のそばには、衣裳戸棚が壁とおなじ平面に立っていて、それには錠をおろさずに、にぶい鳶《とび》色の紙をもっておおわれていた。試みにその戸棚をあらためたが、そこには女の着物をかける掛け釘があるばかりで、ほかには何物もなかった。さらに壁を叩いてみたが、それは確かに固形体で、外は建物の壁になっていた。
 これでまず家じゅうの見分《けんぶん》を終わって、わたしはしばらく火に暖まりながらシガーをくゆらした。この時まで私のそばについていたFは、さらにわたしの探査を十分ならしめるために出て行くと、昇り口の部屋のドアが堅くしまっていた。
「旦那」と、彼は驚いたように言った。「わたくしはこのドアに錠をおろした覚えはないのです。このドアは内から錠をおろすことは出来ないようになっているのですから……」
 その言葉のまだ終わらないうちに、そのドアは誰も手を触れないにもかかわらず、また自然にしずかにあいたので、私たちはしばらく黙って眼を見あわせた。化け物ではない、何か人間の働きがここで発見されるで
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