あなたですか。そんなことをしたのは……」
「わたしが……。何をしたというのだ」
「でも、何かがわたくしをぶちました。肩のところを強くぶちました。ちょうどここの所を……」
「わたしではない。しかし、おれたちの前には魔術師どもがいるからな。その手妻《てづま》はまだ見つけ出さないが、あいつらがおれたちをおどかす前に、こっちがあいつらを取っつかまえてやるぞ」
 しかし、私たちはこの座敷に長居することはできなかった。実際どの部屋《へや》も湿《しめ》っぽくて寒いので、わたしは二階の火のある所へ行きたくなったのである。私たちは警戒のために座敷のドアに錠《じょう》をおろして出た。今まで見まわった下の部屋もみなそうして来たのであった。
 Fがわたしのためにえらんでおいてくれた寝室は、二階じゅうでは最もよい部屋で、往来にむかって二つの窓を持っている大きい一室であった。規則正しい四脚の寝台が火にむかって据えられて、ストーブの火は美しくさかんに燃えていた。その寝台と窓とのあいだの壁の左寄りにドアがあって、そこからFの居間になっている部屋へ通ずるようになっていた。
 次にソファー・ベッドの付いている小さい部屋が
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