ったらしい。それから座敷へ通ると、ここは新しくて綺麗であった。そこへはいって、わたしは肘かけ椅子に倚《よ》ると、Fは蝋燭立てをテーブルの上に置いた。わたしにドアをしめろと言いつけられて、彼が振りむいて行ったときに、わたしの正面にある一脚の椅子が急速に、しかもなんの音もせずに壁の方から動き出して、わたしの方から一ヤードほどの所へ来て、にわかに向きを変えて止まった。
「ははあ、これはテーブル廻しよりもおもしろいな」と、わたしは半分笑いながら言った。
 そうして、わたしがほんとうに笑い出したときに、わたしの犬はその頭をあとへひいて吠《ほ》えた。
 Fはドアをしめて戻って来たが、椅子の一件には気がつかないらしく、吠える犬をしきりに鎮めていた。わたしはいつまでもかの椅子を見つめていると、そこに青白い靄《もや》のようなものが現われた。その輪郭《りんかく》は人間の形のようであるが、わたしは自分の眼を疑うほどにきわめて朦朧たるものであった。犬はもうおとなしくなっていた。
「その椅子を片付けてくれ。むこうの壁の方へ戻して置いてくれ」と、わたしは言った。
 Fはその通りにしたが、急に振りむいて言った。

前へ 次へ
全54ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
リットン エドワード・ジョージ・アール・ブルワー の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング