いことも確かにわかったが、そのほかには別に私たちの興味をひくような物も発見されなかった。外には薄暗い小さな裏庭があって、高い塀にかこまれている。この庭の敷石はひどくしめっているので、その湿気とほこりと煤煙《ばいえん》とのために、わたしたちが歩くたびに薄い足跡が残った。
 わたしは今や初めて、この不思議なる借家において第一の不思議を見たのである。
 わたしはあたかも自分の前に一つの足跡を見つけたので、急に立ちどまってFに指さして注意した。一つの足跡がまたたちまち二つになったのを、わたしたちふたりは同時に見た。ふたりはあわててその場所を検査すると、わたしの方へむかって来たその足跡はすこぶる小さく、それは子供の足であった。その印象はすこぶる薄いもので、その形を明らかに判断するのは困難であったが、それが跣足《はだし》の跡であるということは私たちにも認められた。
 この現象は私たちが向うの塀にゆき着いたときに消えてしまって、帰る時にはそれを繰り返すようなこともなかった。階段を昇って一階へ出ると、そこには食堂と小さい控室がある。またそのうしろには更に小さい部屋がある。この第三の部屋は下男の居間であ
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