ール夫人がその手でいくたびか両方の眼をこすったことと、自分の持病の発作が顔容《かおかたち》を変えはしないかと訊ねたことは、わざとバーグレーヴ夫人に自分の発作のことを思い出させるためと、彼女が弟のところへ指環や金貨の分配方を書いて送るように頼んだことを、臨終の人の要求のように思わせずに、発作の結果だと思わせるためであったように考えられる。それであるから、バーグレーヴ夫人も確かにヴィール夫人の持病が起こって来たものと思い違いをしたのである。同時にバーグレーヴ夫人を驚かせまいとしたことは、いかに彼女を愛し、彼女に対して注意を払っていたかという実例の一つであろう。その心遣いはヴィール夫人の亡霊の態度に始終一貫して現われていて、特に白昼彼女のところに現われたことや、挨拶の接吻を拒んだことや、独《ひと》りになった時や、更にまたその別れる時の態度、すなわち彼女に挨拶の接吻をまた繰り返させまいとしたことなどが皆それであった。
さて、なぜにヴィール氏がこの物語を気違い沙汰であると考えて、極力その事実を隠蔽しようとしているのか、私には想像がつかない。世間ではヴィール夫人を善良の亡霊と認め、彼女の会話は実
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