ことはないかと訊《たず》ねると、ヴィール夫人は無いと言ったそうである。なるほど、ヴィール夫人の亡霊の遺言はきわめてつまらないことで、それらを処理するために別に裁判を仰ぐというほどの事件でもなさそうである。それから考えてみると、彼女がそんな遺言めいたことを言ったのは、要するにバーグレーヴ夫人をして自分が亡霊となって現われたという事実を明白に説明させるためと、彼女が見聞した事実談を世間の人たちに疑わせないためと、もう一つには理性の勝《か》った、分別のある人たちの間にバーグレーヴ夫人の評判を悪くさせまいための心遣いであったように思われるのである。
 それからまた、ヴィール氏は金貨の財布もあったことを承認しているが、しかし、それは夫人の私室《キャビネット》ではなくて、櫛箱の中にあったと言っている。それはどうも信じ難い気がする。なぜなれば、ワトソン夫人の説明によると、ヴィール夫人は自分の私室の鍵については非常に用心ぶかい人であったから、おそらくその鍵を誰にも預けはしないであろうというのである。もしそうであるとすれば、彼女は確かに自分の私室から金貨を他へ移すようなことはしなかったであろう。
 ヴィ
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