てこの亡霊の話をいちいちみんなに語って聴かせても、けっして一銭も受け取ろうとはしないばかりか、彼女の娘にも人から何ひとつ貰わせないようにしていたので、この物語をしたところで彼女には何の利益もあるはずはないのである。
しかも、亡霊の弟のヴィール氏は、極力この事件を隠蔽《いんぺい》しようとした。一度バーグレーヴ夫人に親しく逢ってみたいと言っていたが、彼は姉のヴィール夫人が死んだのち、船長のワトソンの家までは行っていながら、ついにバーグレーヴ夫人をおとずれなかった。彼の友達らはバーグレーヴ夫人のことを嘘つきだと言い、彼女は前からブレトン氏が毎年十ポンドずつ送って来ることを知っていたのだと言っているが、私の知っている名望家の間では、かえってそんなふうに言い触らしているご本尊のほうが大嘘つきだという評判が立っている。ヴィール氏はさすがに紳士であるだけに、彼女は嘘を言っているとは言わないが、バーグレーヴ夫人は悪い夫のために気違いにされたのだと言っている。しかし彼女がただ一度でも彼に逢いさえすれば、彼の口実を何よりも有効に論駁《ろんばく》するであろう。
ヴィール氏は姉が臨終の間ぎわに何か遺言する
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