ーグレーヴ夫人に逢いたいと言った。それから彼女はもうお暇《いとま》をしますと別れを告げて歩き出したが、町の角を曲がってその姿は見えなくなった。それはあたかも午後一時四十五分過ぎであった。

 九月七日の正午十二時に、ヴィール夫人は持病の発作《ほっさ》のために死んだ。その死ぬ前の四時間以上はほとんど意識がなかった。臨床塗油式《サクラメント》はその間におこなわれた。
 ヴィール夫人が現われた次の日の日曜日に、バーグレーヴ夫人は悪感《さむけ》がして非常に気分が悪かった上に、喉《のど》が痛んだので、その日は終日外出することが出来なかった。しかし、月曜の朝、彼女は船長のワトソンの家へ女中をやって、ヴィール夫人がいるかどうかを尋ねさせると、そこの家の人たちはその問い合わせに驚かされて、彼女は来ていない、また来るはずにもなっていないという返事をよこした。その返事を聞いても、バーグレーヴ夫人は信じなかった。彼女はその女中にむかって、たぶんおまえが名前を言い違えたのか、何かの間違いをしたのであろうと言った。
 それから気分の悪いのを押して、彼女は頭巾《ずきん》をかぶって、自分と一面識のない船長ワトソンの
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