」
「よし来た」将校は、大きく肯《うなず》いて、もう一度渦巻の中心とおぼしい下界を見おろしたが、
「小僧! 幽霊船が、いやしないじゃないか」
僕も、陳《チャン》君も、びっくりして下界を見おろすと、なるほど、大渦巻の中心に、捲き込まれて、独楽《こま》のようにぐるぐる廻っているはずの、死の船――幽霊船が、姿を見せないではないか。
「どうだ。小僧! やっぱり、おまえたちの夢だ」
「いいえ、たしかに、あの大渦巻に捲き込まれていたのです。僕等は、その幽霊船の甲板から、風船で脱れたのです。博士たちは、船に残っているンです。救《たす》けて下さい」陳君は、寂しげに云った。
「だって、幽霊船が、一向に見当らぬではないか。どうしたというンだ」
いくら、低空を旋回してみても、渦を巻く海上に、幽霊船の姿を見出すことが出来なかった。
「ああ、やっぱり、ほんとうの幽霊船だったかもしれないね」
とうとう、陳君は、こんなことを呟《つぶや》いた。
「じゃ、君は、あの怪老人を、あの偉大な生理学者を、亡霊だったというのかい」僕は、聞返すと、
「だって、妙じゃないか。幽霊船が、やっぱり、ほんとうの幽霊船なら、あの白衣《
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