ンドルを握っている。それをみて、陳君は、
「とにかく、機関が停っては、君がここに突立って、コンパスと睨めっくらしていたって無駄さ。船長室へ往って、午睡《ひるね》でもするさ」
二人は、悄然《しょうぜん》として階段を下りた。
中甲板をおり立つと、どこにいたのか、五人の水夫が、不意に現われて、二人の前に立塞《たちふさが》った。
「|停れ《ストップ》――」太い低音《バス》で叫んだのは、髪の縮れた、仁王のような安南人だ。右手を突出《つきだ》し、ピストルの銃口を二人の胸に向けた。
「やい小僧。てめえたちは、とんでもねえことをしてくれたな。さア、はやく機関を動かせ」
陳君は、落着払って、
「故障で動かないのだ。このうえは、潮流に乗って漂うまでさ」
「漂流?……よろしい。……で、小僧、てめえたちは、このピストルが怖くはねえのか。怖かったら、乃公《おれ》に降伏しろ」
「降伏?」
「そうだ。本船では、乃公が一番の強者だ。何故《なぜ》なら、乃公はピストルを持っている。そこで、強者の乃公は、ピコル船長に代って、今から船長様だ。てめえたちも、乃公の命令に従うがいい」
「黙れ! 縮毛。船長は、この僕だ。おま
前へ
次へ
全97ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺島 柾史 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング