「おや」「おや!」
横に倒れたまま、海に墜落した風船は、海底に沈まず、ふわりと浮んだままだ。
二人とも、水に溺《おぼ》れかけながら、顔を見合った。
「風船が水に沈まないぜ」
「ほんとうだ。……麻袋に蝋《ろう》を塗ってあるからだろう」
「それにちがいない。試しに、あの風船に乗って見ようか」
「よかろ」二人は、ハンモックを離れて、畳のように海面に拡がった風船に這《は》い上った。大きな麻袋なので、二人を乗せても平気だった。
「天佑天佑」僕らは手を拍《う》ってよろこんだ。
「思慮の深い博士の考案だ。これくらいのことは当然だろう」
「まったくだ。こいつは、まるで革の船みたいだね」救《たす》かったとおもったら、急に眠くなった。
二人は、風船の浮船の真中ごろに陣取って、横になった。
「お腹が空いて、ぺこぺこだ」僕がいうと、陳君は、
「贅沢《ぜいたく》いうなよ。あの大渦巻に捲き込まれて、独楽《こま》のように廻っている老博士たちのことを考えたら、贅沢は云われないぜ」
「そうだ」
「怪老人も、博士も、じつに偉大な科学者だ。あの魔の海で死なしたくはないね」
「まったくだよ。僕は、何とかして救《たす》
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