に、
「この、不完全な風船に、われわれが乗れやしないじゃないか」
「でも、僕等だけ……」
「何を云うのか、おまえたちは、前途有為な少年じゃ。この魔の海を脱れなければならないが、われわれ老人は、もう任務が終ったので、この幽霊船と運命を倶《とも》にするのじゃ」
「そうだ。君たち少年だけで、大空へ脱れたまえ。わしと、博士とは、従容《しょうよう》して、君たちを送るよ」怪老人も、僕等を促す。
「それはいけません。僕等は、あなた方を見殺《みごろし》には出来ません」
「またそんなことを云う。この風船は、四人の人間を乗せることが出来ないのだ。君たち二人が乗っても、危険なくらいだ。が、この船で死ぬよりか、ましだとおもって乗りたまえ」
「でも」
「まだ躊躇《ちゅうちょ》するか。いかん。せっかく充填した圧搾空気が効力を失い、浮揚力を失ってしまうじゃないか。それ、もっと圧搾空気を填《こ》めろ」
ふたたび、圧搾空気を、風船に填めた。
「さあ、一刻もはやく、ハンモックに乗りたまえ」
「…………」僕等は、もう拒むことも出来ず、ハンモックに乗った。
「博士、では」
「先生! きっと迎えに参りますよ。それまで生きてい
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