博士の命令どおり、たんねんに麻布に塗った。
まもなく長さ数メートルの大きな蝋塗りの麻袋が出来上った。それに幾本かの麻縄《ロープ》を結び、その端に、ハンモックを取付けた。
「これでよい。この原始的な飛翔機で、大空へうかび上るのだ」
老博士は、満足げに云った。
「でも、博士、この麻袋の中へ、瓦斯《ガス》を填《こ》めなければ浮びませんよ」
「勿論《もちろん》さ。瓦斯の代りに、冷凍室で使う圧搾空気を入れたらいい」
「ああ、そうだ圧搾空気をつくろう」
僕は、悦《うれ》しげに叫んだ。
烈《はげ》しい風が吹いていた。風船を空に浮べるに絶好の日だ。
陳君は、この日朝から汽罐《かま》を焚《た》いた。蒸気が機関のパイプに充満すると、動力をはたらかして、圧搾空気をつくった。それを甲板まで導いて、麻布の風船の中へ充填《じゅうてん》した。
天佑か、奇蹟《きせき》か、大きな麻袋は、大きくふくらみ、空へ飛翔せんとて暴れ廻る。その口を固く結んで、縄を船橋《ブリッジ》の柱へ縛りつけた。
「おい、はやく、ハンモックへ乗りたまえ」
老博士は、僕等を促した。
「博士は?」僕は訊ねると、彼は叱《しか》りつけるよう
前へ
次へ
全97ページ中85ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺島 柾史 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング