故障を直せるでしょうね」
 と、老博士にいうと、陳君は、それを引取って、
「そうだ。この船の心臓部の故障を直していただくと、僕は機関士、山路君に運転士、たちまち船を動かして、一路、日本の横浜へ直航が出来ますぜ」
 怪老人も、肯《うなず》いた。
「なるほど。人間の心臓の手入れは、わしの得意とするところじゃが、船の心臓の手入れは、博士におねがいするとしよう」老博士は、とうとう、機関《エンジン》の修理を押付けられてしまった。
「炭水はあるかね」
「あります。この三ヶ月、一塊の石炭も使わなかったので□」
「機械油は?」
「それも十分です」
「ではひとつ、心臓の手入れをしてみようか」老博士は、やっと腰をあげた。陳君は、僕に向って、
「君は、また運転士だぜ。すぐ用意をしたまえよ。博士の修理が出来たら、僕は、すぐに機関を動かしてみせる。そのまに、石炭を汽罐《かま》に放り込んで置こうか」気の早い陳君は、逸早《いちはや》く昇降口から姿を消してしまった。

     魔の海! 魔の海!

 果して、数時間ののち、幽霊船|虎丸《タイガーまる》は、運命の方船《はこぶね》を、海洋に捨て、単独で動き出した。心臓部
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