ゃ」
「うむ。……事実とすれば、まさしく科学の奇蹟《きせき》じゃ」
「どうじゃ、疑うなら、もう一度、少年の屍骸に息を吹込んで見ようか」
「どうか、やって下さい」僕はわれを忘れて叫んだ。
「よろしい。おまえたちの眼の前で、屍骸が、立ち上るだろう。さっそく実験してみよう」

     屍骸が動く

 白衣《びゃくえ》の怪老人は、そのまま船室の方へ消えたが、再び現われたとき、例の大きな鞄を抱えてやって来た。「これが、わしの玉手函《たまてばこ》じゃ」彼は、不気味に笑って、陳《チャン》君の屍骸の方へ、よろよろと近より、白衣《びゃくえ》の腕をまくり、鞄から、幾本かの注射器を取出し、屍骸《しがい》に手をかけた。
「その辺に、ごろごろしている屍骸をみるがよい。三ヶ月の漂流で腐敗して、形は崩れているはずだのに、そのように生々しいのは、わしの創案した防腐剤のおかげじゃ、少年の身体の防腐剤を解消するために、ベツな注射を幾本か施すのじゃ」
「では、ほかの屍骸にも、その注射を施すと、みんなが生き還《かえ》りますか」僕は、不安になって訊《たず》ねた。みんな生き還ったら、どんなにまた暴れるかしれないと、おもったから
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