のために、絶好の機会をつくってくれたのじゃ。そこに斃《たお》れている少年の心臓が、ピストルに射貫《いぬ》かれ、打砕かれたのを摘出し、それにいる安南人の健全な心臓と取替えたのじゃ。すると、どうじゃ。少年の屍骸は、たちまち、むくむくと起き上ったのだ」
「うむ。……しかし、少年は、屍骸となっているのではないか」
「待ちたまえ。心臓の入替を実験するだけではなく! そのあとで、もっと重大な実験をなしたのじゃ。人間の生命を永遠に保存することだった」
「えッ! 生命の保存?……それは、考えられぬことだ。空想に過ぎない」
 老博士が叫ぶと、怪老人は、冷《ひやや》かに笑って、
「空想が実現した例は、むかしから無数にある。まして、わしの、生命保存の真理は、空想ではなく、三十年来の実験の結果、到達したものじゃ。わしは、一旦死んだ少年の、左胸部を抉って心臓を取替えて蘇生《そせい》せしめたので、少年の生命は、わしの所有といってよい。そこで、蘇生した少年に、わしの創案した防腐剤を注射し、そして、ふたたび殺してみたのじゃ。なるほど、少年は死んでいる。が、それは、仮死の状態にあるので、生命は、永遠に保存されてあるのじ
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